エピローグ


事件の結末を見て島根県に戻った並木眞吾に、小暮から電話が入ったのはそれから二日後であった。
「おい、並木。おかげで二人とも自供したよ。お前さんの言うように駆け引きは成功したが、気が気じゃなかったぞ。なにぶんにも、奴が現場にいた証拠はないんだからな。徳津が宅澤を見たんだろうとの推測はまちがいなかったが、奴は証拠を持っていない俺たちをなめきっていたらしい。もちろん、糸波もそうだ。俺達は、いくら状況証拠で立件可能だとしても、やはり動かぬ証拠が欲しいからな。冤罪を立証するために再捜査を始めた俺たちがしなければならなかったのは、あらゆる可能性を考えた、思い込みのない捜査だった。いつだったかお前さんに話したと思うが、思いこみの捜査からは事実は見えてはこないからな」
「僕も君からこの事件のことを聞いたとき、冤罪ならばなんとしてでも解決しなければ死んでも浮かばれないだろう…、そんな顔も知らない伍代早苗の悲しそうな顔が目に浮かぶようだった。それと、彼女の無実を“遺言”にした女囚・村尾伊佐子が哀れでならなかった。それを思うと、時効を目前にしてほくそ笑む犯人が憎くてね」
「とにかく世話になった。明日、そっちに顔を出すよ」
 相変わらずの調子で、突然の来訪を告げる小暮に、並木が訊いた。
「明日? ところで今どこにいるんだい?」
「瀬戸内の因島だよ」
「因島?」
「ああ、伍代早苗の故郷だ。今日、彼女の墓前に報告を済ませてきたんだよ。瀬戸内の海を見おろす眺めのいい所だった。周りに段々畑のミカン畑があってね」
並木は、電話の声を聞きながらテレビの横のカレンダーに目をやった。
 カレンダーの数字の三十一日は、赤い丸で囲われていた。
 その数字は、かつて起きた無惨な殺人事件からちょうど十五年目の日付であった。
並木はその赤い丸から目を腕時計に落とすと誰にともなしに静かに呟いた。
「あと四時間で新年か…」と。


     了