この文は、朝日新聞第2県版「三瓶博物誌」に掲載されたものを、加筆したものです。
                               (文・写真:南家 明)


 三瓶山の裾野に、背丈が10aばかりの茎の先に、
白い花をつけるミヤマカタバミが群生する場所がある。
 地元の野山ではしばしば見られる花だが、「深山酢
漿草」とも書く。普段は足を踏み入れることのない山奥
で、人目にふれるのを避けるように、落ち葉が積もった
自然林内で辺り一面をおおうのは見事なばかり。文字
通り深山に咲くカタバミ。 
花が大好きな私としては、秘密の花園を見つけ
たようで、思わずニンマリする。名の「酢漿草」に、
酢の字が使われるのは、噛みしめると酸味が
あることから。面白いことに、同じ仲間で庭や道
ばたに生えるカタバミは「傍食」とも書く。葉の片
方が欠けているように見えることからという。
 可憐なミヤマカタバミには、多くの現代人には
知られざる一面がある。かつて、地中深くで、た
ちこめる石の粉の舞う空気の中で働く、大森銀山
の作業員たちに重宝された時代があったという。
 屈強な男性と、いまにも踏みつぶされそうな小
さく愛らしい花との組み合わせは、「へー」とい
う気がしなくもないが、この植物は、鉱山病(塵肺)
に苦しむ作業員たちに優れた薬効があったらしい。
煮立てたミヤマカタバミの薬気を坑道に送ると、呼
吸器の病に役だったのだ。
私は、三瓶のミヤマカタバミを見るたび、銀の山が
連なる大森の地に生え、多くの男たちを救った花
のことを想像する。なお、蜂などの虫に刺されたとき
は、雑草と嫌われるカタバミの汁をぬると効果があ
るともいわれ、その生薬名は、「酢漿草」という。
花コラム
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