このコラムは三瓶自然館の情報誌に掲載されたものを加筆したものです。

「消えゆく風景 なだら」

私の住んでいる地区では、多くの農家で米を作っています。田んぼは、三瓶山のすそ野に広がるゆるやかな斜面にあり、東を見ると三瓶山、西には日本海が望めます。ほとんどの田んぼは小さく、斜面に窮屈そうに並んでいますが、このような段々状の田んぼを私たちは棚田と呼んでいます。
モズの姿をよく見かける秋、稲刈りが終わると、刈った稲は写真のように「稲はで」あるいは「なだら」と呼ばれるものにかけて干すのが普通でしたが、最近ではこのような光景はとても少なくなりました。
「なだら」は、長めの物干しのようなものですが、沢山の稲束をかけられるように、長さ15b、高さが3bを超すものもよく見かけました。下から投げ上げた稲束を受け取るため、高い場所は人が上っていました。子どもだった私などもよく一番上に上がりましたが、手伝いで上がるというよりも、海までもが眺められる場所が気に入っていたからだったように思います。
「なだら」は、おいしい米をもたらしてくれたり、遊びの場所にもなりましたが、心配の種でもありました。と言いますのは、「なだら」は台風が頻繁にやって来る秋に立ち並びます。そして、台風が通過した後は、いくつもが転倒し、せっかく乾いた稲がびしょ濡れになるだけでなく、泥だらけになったりもしました。雨を伴う強風に倒されたのです。こうした度重なる被害や、農業をする人の高齢化、あるいはコンバインなどの機械化が進み、今ではほんの2〜3軒の農家の田んぼに立つだけとなりました。昔ながらの風景が消えていくのは寂しいものですし、「なだら」という言葉さえ口に出すことも少なくなりました。しかし、それも時代の流れの一つなのかも知れません。
(文・写真 管理人)

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