トキワイカリソウ
最終寄港地はどこ?

 水面がキラキラと輝く小川を見おろす斜面で、
「常盤碇草」とも書くトキワイカリソウを見つけ
た。常緑の葉を持つ花をじっくりと観ると、その
名の由来がよく分かる。なるほど、下向きにつり
下がるように咲く花は、小さいが船の碇によく似
ている。白花もあれば紅紫色もあり、いずれも透
き通るような色合い。童話の世界か絵本にでも登
場しそうな植物である。自然界の造形は、まこと
に不可思議で奥が深い。
 無粋でいらぬ詮索かも知れないが、ぶら下がら
ずに咲いていたら、さてさて、どのような名がつ
けられただろうか。三瓶で見かけるトキワイカリソ
ウは、背丈は20〜30aばかり。春先などは、見
た目には樹木の苗木のようにも見えるが、れっき
とした草。多年草で、多雪地帯では葉をつけたま
ま冬を越し、それ以外の地では葉が消失するとい
う。何やら逆のようにも思え、冬に確認してみたら、
やはり雪の下で葉をつけていた。
 ところで、この植物について、私はいつも困惑
してしまうことがある。多少堅苦しいことを言うよう
だが、トキワイカリソウの分布は、本州(中部地方
以西)。主に日本海側と紹介されている文献がほ
とんど。三瓶一帯はその領域で、もちろん生育して
いる。とは言っても、島根県内で碇を下ろし停泊し
ているとは思えず、気になって広島県境まで調べ
に行ったら、大万木山にもあった。この植物の最
終寄港地は、一体どこなのだろうか。
 ちなみに、トキワイカリソウによく似たものにキバ
ナイカリソウやイカリソウなどがある。いずれも個
体の変異や地域差が大きく、よほど見慣れないと
判別が難しい。こうしたことも、分布紹介の際の難
点の一つなのかも知れない。
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朝日新聞第2県版「三瓶博物誌」掲載文を加筆したものです
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